独裁者の言い分―トーク・オブ・ザ・デビル リッカルド オリツィオ (著)#132

3月 1st, 2010 by blogown

本書のAmazonでの評価は低い。
たいしたことがない本なのかもしれない。
僕は、そう思っていた。

けれども、実際に読んでみると、実は、本当はとっても素晴らしい本なのだと気付いた。

たしかに、学術的な要素も少ないだろう。
追いつめるまでのストーリーも長い。

しかし、最も重要なのは、この本からは、著者の愛というか、探究心、好奇心が伝わってくるからだ。それは、僕自身が共感する部分でもある。

彼は、あるとき、堕ちた暴君たちのその後を調査してやろう、と決意して、何年もの間、多くの国々をわたり、足取りを追跡し続けた。そうしてできたのが、本書「独裁者の言い分」である。

独裁者、とひと括りに言っても、実際には、さまざまな独裁者がいる。

血と武器があふれる独裁者。
そもそもはピュアな信念から腐敗した独裁者。
私腹を肥やすのに執心している独裁者。

たとえば、シエラ・レオネの独裁者だったヴァレンティン・ストラッサー(バレンタイン・ストラッサー)は、1992年に25歳の時、彼と同じ若い将校のグループと共に軍事クーデターを起こし、シエラレオネの元首になった。しかし、1995年に政権内部でクーデターが起こり彼は権力を追われ、イギリスに逃亡。

そして、ウォーリック大学で法事を勉強し、職員をしていたが、シエラレオネ人学生の抗議を受けて解雇され、2000年の時には失業。その後シエラレオネに帰国し母親と同居。

彼は若く、私腹を肥やすことを知らなかったようで、自前の銀行口座すら持たず、独裁者になったにもかかわらず、経済的に困窮し、シエラレオネで母親と同居。外出するたびに、人々から嫌がらせを受けているそうだ。

その一方で、腐りきった独裁者とその周辺もいる。

ハイチ共和国の第33代大統領・ジャン=クロード・デュヴァリエ。
「ベベ・ドク」(Bebe Doc)または「ベビー・ドック」(Baby Doc)と称される。

独裁者と呼ばれたハイチの大統領フランソワ・デュヴァリエの息子。
世襲して大統領になり、15年間やはり独裁者として君臨。

彼自身の政治は、独裁政治で、腐敗政治。
結局は、1986年に食糧暴動に端を発した国民運動をきっかけに、アンリ・ナンフィ将軍による軍事クーデターによって失脚する。

彼も腐敗しているのだが、最たるは、彼の元妻、ミシェル・デュヴァリエ(現・ミシェル・ベネット)である。
彼女は、ある種、極めて合理的なかたちで、国家から富を搾取した人物である。
ある意味、ビジネスマンであるが、国民からしてみれば、腐りきった女帝である。

彼女が何をしたか。
それは、独裁者が何をするかということを端的に示す事例といえる。
ちょっと見てみよう。

まず、結婚式は首都のポルトープランスの大聖堂にて行い、300万ドル(3億円)の費用をかけた。
次に、直後、ミシェルは自分専用の貯金箱として、ミシェル・B・デュヴァリエ財団を設立。
さらに、デュヴァリエの親族を宮殿より追い出し、自分の親族を入れる。

その後、実の父、エルンストをハイチ・コーヒーの独占輸出権を持つ25人のひとりに据える。
他の24人と違って、免許税まで免除で。

だが、ワシントン・ポストによれば、コーヒーは表向きで、実際のビジネスはコロンビア・コカインの密売らしいが。
ちなみに、ミシェルの兄弟であるフランツは、薬物密売容疑でプエルトリコで逮捕された。

合衆国商務省の資産によれば、80年代のハイチ政府の歳入の63%は、デュヴァリエ一家の息のかかった企業や個人が不正に吸い上げていたという。
追放されたハイチ財務大臣の告白によれば、月に1500万ドル(15億円)の金が予算外支出として計上されていた。

1980年12月にはハイチがIMFより借りた2200万ドル(22億円)のうち、実に2000万ドル(20億円)がミシェルの財団を経由してデュヴァリエの個人口座に入っていたのだ。

つまり、ハイチの路上で、弾圧や圧政に苦しみながら、さらに栄養失調や貧しい生活を強いられながら生きている人々を放置しておきながら、自分たちは贅沢三昧。
さらには、世界がハイチという国家に貸した金(IMFの資金)のほとんどを個人的な懐に入れているのだ。

人の上に立つ者は、高潔でなければならず、思想も崇高なものであるべきだと思う。
それは、つまり、私・自分を殺し、公のために生きるということだ。

なぜなら、権力を持つ者は、その意思しだいで、私腹を肥やすこともできるし、公のために幸福をもたらすこともできるのだからだ。

リーダーたる者、己のエゴのために、動いてはならない。

腐りきった独裁者たちを見ることで、それを学ばねば。

追記:

最後に、独裁者になるプロセスを考えてみる。

大体は、軍部にいた人物でリーダー。
そういう人物がクーデターを起こし、政権を取る。
そうでない場合は、政党に所属して政治活動を経て、なんとか国家元首になる。

政権を取った後は、反対派を排斥、弾圧、処刑。
血の海ができる。
自分を支持する者のみを残し、あとは排除する。

そうすることで、独裁者が形成される。
あとは、その人物がやりたい放題するわけで、そいつが愚かな場合は、民衆は大変な苦労をさせられる一方で、そいつは派手で豪華な生活をこれから謳歌することになる。

また、独裁者を打倒するプロセスとしては、やはりレジスタンス活動。
民衆が意思を統一させることが、一番なのだ。

色々と勉強になる一冊。

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